八重のジュプン咲くこの島で

文明社会から距離を置き、豊かな自然に埋もれたような小さな島。そこで共に生まれ育った15歳のキリとカナンは、次の満月の夜に島に伝わる儀式を執り行うことになっている。
対極に位置するふたつの要素を『聖獣』と『魔女』に象徴させ、二者の間で調和、バランスをとることで世の平穏を保つ、というその儀式で、キリとカナンに求められる行為とは――。
15歳の幼馴染ふたりの初体験/36歳の疎遠になっていた幼馴染ふたりの初恋の再燃の話。
性描写を含む話はサブタイトルに★がついています。

※現代東南アジアがモデルの架空の国が舞台です。若干のファンタジー要素有。
※架空の、未成年が性的な宗教儀式を行う描写が含まれます。
※作中で使用している香油は「現実に存在する肌、粘膜へ使用できない花から抽出した成分が含まれるアロマオイルをモデルに想像した架空のアイテム」としてお読み頂ければ有難いです。
※36歳の片方に他人との肉体関係の気配がある描写が含まれます。


  • 01.光差す島

     キリには懐かない鳥が当てつけがましい羽音を立てて飛び去った。浅瀬に腰まで浸かったカナンは、一瞬前まで肩で好きなように遊ばせていた鳥を気にも留めず、キリに笑顔を向ける。「お帰り、キリ。 これでしばらくは島にいるんだろう?」「ああ。 儀式の夜…

  • 02.西日の強い街

     刺すような西日をやわらげようと目を細め、ガラムは本島に降り立った。行き交う人波や車、普段の島の生活にはないものに辟易する。悪臭、騒音、他人のぴりついた感情の気配――用事がなければ来たいところではない。 こんなところに住んで、暮らしていける…

  • 03.仮宮の朝★

     閉じたまぶたを貫いて朝の光が入ってくる。こんなに光が強くなっているってことは、とキリはあわてて飛び起きた。学校へ行かなくていい、となるとどうも気が緩んでしまう。「カナン! 寝過ごした、起きろ!」「……べつに、ねててもよくないか……?」「だ…

  • 04.選定の儀

    「緊張してるか?」 キリの耳に息を吹き込むようにしてカナンが囁く。緊張していない、と言えば嘘になるが、カナンのこれは自身の緊張をごまかすためか、キリへの配慮か。どちらにしろかえって落ち着かない。「してるのと、してないのとで、何が変わるんだ」…

  • 05.開かない扉

     流石に、この状態のカナンに勉強を強いることはできない。ガラムはそう判断し「釣りでも行くか?」と声をかけた。顔を覆う前髪の隙間から恨みがましい目がのぞく。常にはない虹彩の色、まるで歓楽街のネオンのようなどぎついピンクがぎらりと光を反射した。…

  • 06.儀式の支度★

    ※作中で使用している香油は「現実に存在する肌、粘膜へ使用できない花から抽出した成分が含まれるアロマオイルをモデルに想像した架空のアイテム」としてお読み頂ければ有難いです※ 揺らめくろうそくの炎に照らされた箱の中身を前に、キリとカナンはふたり…

  • 07.水曜日の夕暮れ

    ※ラダの、街での他人との肉体関係の気配がある描写が含まれます※ 思いのほか遅くなってしまった。ガラムが勝手に衝撃を受けたラダとの通話から水曜日を無駄に一度過ごしてしまった上、現在時刻は午後6時過ぎ。連れてきたキリのことを考えると少々問題のあ…

  • 08.街の風を切って

    「壁蹴って、上から跳んでけ!」 ガラムの声でキリは瞬時に踏み切った。跳び上がった空中で一回転、次の着地点を確認する。二つの壁の隙間を順番に蹴って上へと身体を運び、柵を飛び越えて屋上へ。降り立った脚を助走に切り替え、眼下に広がる通り向かいの屋…

  • 09.水辺の戯れ★

    ※恋愛感情に絡まない女性キャラクターが登場します※「キリ、そっちどう? 八重ある?」「ん……今のところない」「たいがい取り尽くしちゃったんじゃないのか? 八重ばっかり固まって生えててほしいよな」 カナンはそう嘆き、投げやりに寝そべった。八重…

  • 10.赤く染まる頬

    ※恋愛感情に絡まない女性キャラクターが登場します※「キリ、あんた……!」 ウタラの家の扉を開けるやいなや、母、アイルが突進してきた。勢いよく両手でキリの顔を挟み、聖獣の色を宿した目を覗き込んでくる。ぴしゃりと音がしたほどの両手は下手をしたら…

  • 11.満月の夜・街(1)★

     おかしなことになってしまった。ガラム自身には何ら突飛な要素はないはずだが、行く先々で顔を合わせた強面の男たちがかしこまるせいで変な目立ち方をしてしまっている。夜遊びがてらのそぞろ歩きに見せかけたいのに、筋者の見回りそのものでは困るのだ。「…

  • 12.満月の夜・街(2)★

    「っあ、あっ、んんっ、ガラム……ッ!」「う、あ、は……っ、あ……っ、 ラダ、も、|射精《で》るからぁ……っ!」 自覚があるだけで少なくとももう2度は射精している。保たないのでは、という危惧も何処へやら、ガラムはラダの身体に夢中になって覚めな…

  • 13.満月の夜・島(1)★

     八重のジュプンで作った香油はこれだけで足りるだろうか。キリはカナンとふたり、並べた瓶を前に頭を抱える。「儀式の最中は|香油《これ》焚いとかなきゃいけないんだろ? どっちかっちゃそっちに回してさ」「あー……うん、そうだな……。 足りなくなっ…

  • 14.満月の夜・島(2)★

     穏やかな波のような快感がカナンの内奥に包まれた性器から体中へ広がっていく。深くまで|挿入《い》れたまま腰をゆるゆると揺らし、手のひらでなぞっていないところはないほどカナンの身体の形を確かめて、キリは激しく穿ちたい衝動をやり過ごしている。「…

  • 15.島を背にして

     そう言えばカナンが長い髪をまとめているところはほとんど見たことがなかった。後ろから露わになっているうなじを眺めながらキリは思う。 儀式を無事済ませたからなのか、今まではらしくない恐れを見せ島の外に出たがらなかったカナンがキリと共に学校に通…