再生可能なオオカミの牙

結婚目前にして手ひどい裏切りと左遷を受けた過去で女性を恐れるようになったお客様相談窓口コールセンター長、宮代 善爾みやしろ ぜんじは、会社の同性愛差別、偏見により配属された新卒のゲイでネコを自認する崎谷 樹さきや いつきに好意を寄せられている。
献身的な崎谷のサポートに宮代は、自分が崎谷に抱く感情が何なのか悩みはじめて――。
サブタイトルの名前の攻/受交互視点で進みます。
性描写を含む話には★がついています。

※短編「ネコの気持ちはわかるまい」の続きです。
※攻めに女性、受けに攻め以外の男性との過去がある設定です。
※恋愛感情が存在しない女性キャラクターが目立って登場します。
※(念の為)感染症対策を考慮する必要のない世界線を想定しています。


  • 01.宮代善爾の逡巡

    「善爾、アンタねぇ…… 新卒の子にそんな面倒かけてどうすんの?」「うん……崎谷くんにはほんとに申し訳ない」「一応はアンタが教育係とかなんでしょ? 介護されちゃってるじゃないの」「だよねぇ……いくら『宮代さんの役に立ちたいんです』って 言って…

  • 02.崎谷樹の諦念

    「崎谷ァ、お前……結構、やべぇな……」「す、すいません……」「や、あーしも悪かった。今はいいわ。 あとで宮代クンと一緒にやっといて」 ある意味怒られるよりキツイな……。 那須さんと二人がかり、複合機を動かそうとした揚げ句微動だにしない有様に…

  • 03.宮代善爾の覚醒

     不覚。その一言に尽きる。 始業3分前を切って駆け込むなんてことは、メンタルヘルスがどん底だった時にもやらかしていない失態だった。 いい歳をして馬鹿みたいだけど、眠れなかったのだ。 崎谷くんに、会社を離れてもおれに時間をくれるか、と、無茶な…

  • 04.崎谷樹の浄化

    「崎谷くん、好きです」 あれ、俺、もう家に帰って寝てたんだっけ? そもそも今日はコンディションは最悪だった。酔っぱらって、泣いて、寝て……寝転んだだけで。意識が途絶えた実感なく朝になり出社。珍しくギリギリに慌てて出勤してきた宮代さんの剃り残…

  • 05.宮代善爾の懊悩★

    ※攻めの自慰描写があります※ 洗浄目的以外で、これを久しぶりに触る。 このところ――崎谷くんと所謂お付き合いということに至ってからというもの、長くご無沙汰だった感覚が少しづつ戻ってきた、ような気がする。逆にもし欲求が正常に身体の反応として表…

  • 06.崎谷樹の惑乱★

    「キスを、してもいいかな」 宮代さんの目にいつもと違う熱がちらついて、俺は唾を飲み込む。 キスしてほしい。したいと思ってくれたことが嬉しい。 うまく言葉に出来ないから、大きな手をとり自分の身体に導いた。 脇腹から、あばら骨の隙間をなぞるよう…

  • 07.宮代善爾の反省★

    「あれ、崎谷は?」「健康診断に直行です」「あ~、こないだアンタら二人一緒に行く とかねーわっつったやつか。 崎谷、結局全然太れてなかっただろ」「そうなんですよ……。 量食べる習慣がない上に がっつり系があんまり好きじゃないみたいで」「宮代ク…

  • 08.崎谷樹の抗戦

    ※登場人物による同性愛に対する差別的な見解や発言、パワハラ、PTSDを不用意に刺激する発言、描写が含まれます※ 腹が、減ったな。 このところ三食真面目に食べていたせいで余計にそう思うんだろう。採血されるところを目の当たりに、腕には未だ止血の…

  • 09.宮代善爾の救援

    ※登場人物による同性愛に対する差別的な見解や発言、パワハラ、PTSDを不用意に刺激する発言、描写が含まれます※「心配だけど、時間に行かないとまた 文句言ってくるだろうから……」「大丈夫ですよ、宮代さんがついててくれるんですから」 嫌な事言わ…

  • 10:崎谷樹の忘我★

     今から抱かれるつもりで、並んで電車に乗っている。こんな時どんな顔をしたらいいのか、なんて、初心を装う意味も必要もないが誰かに聞けるものなら聞かせてほしい。 もちろん、男同士のセックスで身体を繋げること、挿入をしなければいけないって訳じゃな…

  • 番外編:那須ゆかりの仁義

     速足で通り過ぎざまに一応現状をチェックする。アイラインが少し滲んでいるものの、会社での他人との距離でバレるような状態ではない。 だいたい電話越し、音声でしか人と相対しないというのに顔を作る必要があるのか? 那須ゆかりは定期的に抱く苛立ちと…

  • 番外編:浦部真哉の共感

    「05.宮代善爾の懊悩」の途中、一方そのころ……の内容です。 どうしたらいいか悩んでいるのだろうな。それはとても伝わってくるけれど、自分がこんなに『しゅっとした』お兄さんの、何か助けになれるとは思えない。 |浦部真哉《うらべしんや》はせめて…