休暇で降り立った街のハロウィンで賑わうショッピングモールで、事件に遭遇した宇宙規模民間警備会社<アネモイ・セキュリティサービス>所属のアルベルトとベルナルド。新旧エースパイロットの迅速な対応で事件はスピード解決、ご褒美のように降って湧いたふたりきりの時間をどうやって過ごそうか――。
※攻めフェラのプレゼンをしたい意向を以て書きました。苦手な方にはお薦めできません。
※攻め→ベルナルド/受け→アル(ベルト)
リバを検討した経緯があった描写が含まれます。
「アル、このかぼちゃは食べられるんですか?」
教科書の例文みたいな言い回しでベルナルドが尋ねてくる。せっかく地に足つけてるのに何もわざわざそんなものに食い気を出さなくてもいいだろうに。
「最初から飾り用にでかく育てる品種だったような?
普通食べないやつだよ」
「誰も食べないなら俺がもらって帰っても?」
「おい、このショッピングモールじゅうの
かぼちゃをもらってく気か?
中身はもう捨てられてんの!
ちゃんと食用のかぼちゃ料理食わせてやるから!」
買い出しの大荷物を抱えたまま名残惜しそうな視線をかぼちゃに投げるベルナルドを引っ張って、オレはフードコートを目指した。とりあえず胃袋をなだめてやらないと、陸に上がったエースパイロット様は何をしでかすか分からない。
◇◇◇◇◇
「ベルナルド……
お前に『食事に響く』って言うのは
たぶん野暮だろうとは思うけど」
「はい、何ら影響しません」
腰を落ち着けたコーヒーショップのパンプキンパイをホールで平らげて涼しい顔。今や教えたオレよりキレイな食べ方をするベルナルドは、1ピースを持て余しているオレを見てとって「もらっていいですか?」と伺いを立てる。付き合い、行事食だし、と頼んでみたオレのパンプキンパイは、コーヒーを先に減らしてしまった今、先端を削ったところで進まなくなっていた。
「もちろん、助かる。
オレ甘いパイはちょっと苦手なんだ」
「アルは甘いものはあまり食べませんよね」
美味しいのに、と不思議そうな顔をするベルナルドには理解できないだろう。むさ苦しい男所帯では火星出身で背の低いオレなんかはお嬢ちゃん扱い、甘いものを食べてるところなんか見られたら何を言われるか知れたもんじゃない。パイの甘いのが苦手なのはほんとだけど、時々ベルナルドが羨ましくなることもある。
「手足が人工になってからは、
太らないように気を付けてんだよ」
追及されない、もっともらしい言い訳をして残りのコーヒーに口をつけた。
オレとベルナルドが所属する民間警備会社<アネモイ・セキュリティサービス>は、軍事企業の免罪符的子会社だ。「戦争以外の何でも屋」を社訓に宇宙を飛び回り、警備以外にも惑星探査、行方不明艦追跡、デブリ掃除、その他諸々の困りごとを、軍事技術を大いに転用した最新装備で解決している優良企業である。儲けを出す必要がない上最新技術を惜しみなく開発に投入できる環境はメカニックにとってまるで天国、オレは現在パイロット時代に失った右腕、右脚と左足を全て、流通しているものより高性能な、自分で開発した人工義肢で補っている。
「甘いもので、でないとしても、
アルはもう少し太ってもよいのでは、と思いますね」
ベルナルドの丁寧で親身な口調にオレは首をかしげる。テストパイロットを務める都合上、そして義肢が健常な身体より割増しで重いんだから、太っていいことはないと思うけど。ベルナルドを見返すと目を細め身を屈めて顔を近づけてきた。
「俺の上に乗った時――骨が、当たるんですよ」
思わせぶりにささやいて、すぐに起き直りにっこりと微笑んで見せる。上に乗った時? 何を言われたのか理解できるまで少し時間がかかった。
「っ!! な、ば、そっ……
んなに乗っかったことないだろっ!」
「ええ。だから、乗ってくれる機会が増えてほしい
ということもありまして」
いかがわしいことをお上品に口にしながら、ベルナルドは普段しない舌なめずりを見せつけてきた。真っ昼間の、子どもの泣き声だって響いてるフードコートでしていい顔じゃないだろ! 今はまだ食欲と性欲はきちんと切り離しておいてほしい。テーブルの横に積み上げられたわがままなおつかいをちゃんと届けたら……オレだって考えてない訳じゃないんだ。
ガシャーン!!
突然の破壊音と、直後に鳴り響く防犯ブザー。この音は<アネモイ・セキュリティサービス>謹製、すぐ駆け付けられる範囲の<アネモイ>実働部隊スタッフには警報と同時に出動要請が発信される最新型だ。
「休暇は返上……一旦中止、だな」
「アルと俺で対応、と<所属艦>へ報告します」
耳に仕込んだ通信デバイスを押さえながら言うベルナルドに任せて、オレは吹き抜けになっている階下を確認する。今オレたちがいるのが5階、騒動が起きているのは2階。人がどんどん集まってはいるが、まだ犯人を取り押さえられてはいないようだ。
「ベルナルド、聞こえるか?」
「まずいですね。
店員を人質にとっているようです。
平静を失ってわめいている、
恐らくは素人、男性、単独犯」
「よし、じゃ応援なしでいくか。
ちょうどオレの義足に新しい……」
「少し口を閉じて」
言うなりベルナルドはオレの腹に腕を回してひっ抱え、吹き抜けの空間へ跳んだ。普通に重力がある環境でなんて無茶な、だから俺の義足の新機能、ジェット飛行モードを使おうって……文句を並べたてる暇もなく、紫とオレンジ、ジャックオランタンの風船にぶつかりながらオレたちは空間を縦に貫く巨大垂れ幕に取り付いた。
「2階でしたよね」
「ベルナルド! おま、っ」
「破損の釈明、賠償の相談はアル、お願いします」
言いながら垂れ幕を二、三往復揺らし、その勢いを借りてベルナルドは再び跳んで2階へ降り立った。視界の片隅でゆっくりと垂れ幕の原色が雪崩れていく。
「わかったよ、現場はお前に任せた!」
腹を抱えた腕をべちっと叩くとベルナルドは一瞬出会った頃のような獰猛な笑みを浮かべ、オレをそっと降ろすやいなや駆け出した。何処へ出しても胸を張れるくらい端正な公用語を操り、目を疑うような量を完璧なテーブルマナーで腹に納めるようになったとしても、ベルナルドの性根はあまり変わっていないらしい。
(最近暴れ足りなかったんだろうな……)
こんなけちな事件では十分に鬱憤が晴れやしないだろうが、せめて腕を振るってくれたまえ。オレは犯人と垂れ幕の軽微な損傷を祈りつつ、どうにか売った恩で損害賠償を相殺できないか責任者と交渉するミッションを完遂しなきゃならないんだ。
◇◇◇◇◇
「いやー、チョロ……寛大な店長さんで良かったな!」
「アル、今何か不適切な形容を口にしかけましたよね」
「ん? いや? 全然?」
流石に耳聡いツッコミを流してオレは極めて上機嫌であることを隠しもしていない。ベルナルドの電撃制圧のおかげで損壊した器物は最初に犯人がバールのようなものでぶち割ったショーケースだけ。垂れ幕も外れはしたが破損はしていなかったそうで、オレたちは感謝をされるばかりだった。
「買い出しも特別に配送してくれたから、
艦長も休暇延長で一泊してきていいって言ったし!」
「お食事券も頂けたのは良かったですね。
ヤキ……ニク……?」
「あー、ベルナルド、お食事券でもないと
おっかなくってお前をヤキニクには連れてけなかった。
思う存分食えよ~!」
無期限無制限の電子お食事券を、もらった当日に早速使ってもいけないことはないだろう。一体ベルナルドがどれほど平らげるのか、純粋な興味で見てみたい。
「ヤキニク、も楽しみですけど。
先にあなたを食べさせて」
「!? た、べっ、って、
ベルナルド……ッ」
こんな街中で、まだ昼下がりというぐらいの時間になんてことを言い出すんだ、と怒鳴ろうとして気付いてしまった。冗談やオレをからかうつもりなんかなくて、降って湧いたような外泊休暇をオレと有効活用したくてジリジリしてるんだって、浅黒い肌の耳まで染めてベルナルドは訴えてる。
「……そんな言い回し、教えてないだろ」
「ではどう言えばいいんですか?
……あんたを裸にひん剥いてしゃぶり回してえ。
周りなんか気にしないであんたと……」
「うわーっっっ! わかった! わかったから!
とってくれたホテル行こう! な!?」
オレはあわててベルナルドの口をふさいでなだめにかかる。星系も違うこの街でベルナルド本来の荒っぽくて癖が強い言葉遣いが他人に分かるとも思えないが、聞かされるオレは気が気じゃない。一方言葉を封じられたベルナルドは目で圧を加えてくる。オレが適当に流してうやむやにするんじゃないかって疑ってるのか?
「なあ、オレもがんばるから、いっぱいしゃぶって」
悔しいけどだいぶ高いところにあるベルナルドの頭を引き寄せ耳に吹き込む。久々にベッドの上でお前と触れ合えるのを、オレだって期待してるんだってこと、分かってほしい。
◇◇◇◇◇
お礼の一環として提供された一室はショッピングモールの系列会社が経営しているホテルだった。すぐにでもなだれ込みたいところだが、二つ並んだベッドのうち一つを適度に乱し、もう一つに厳重な対策を施す。ご厚意で用意してくれた部屋を諸般の事情で汚しまくるのは気が咎める。
「もう、いいですか」
「ん……っ、あ……っ、シャワー……」
「挿入れないんだから、要らないでしょう」
そう言ったらそうかもしれないけど……汗くさいとかなんとか、一応気にしないではない。ベルナルドは気にならないのか、と目で窺うと、唇にかぶりつかれた。心底時間が惜しい、ってことかな。
なかなか連続して休みがとれない、とれたとしてもふたり揃っては難しいオレたちは、まだ挿入するとこまでヤッてない。女扱いにコンプレックスがあるオレに気を使ってベルナルドは挿入にはこだわらない、自分が突っ込まれる方でもいいと言う。だからってエースパイロット様の尻の穴をやらしい用途で開発しちゃう訳にも、ってことで、暫定挿入れるならオレに、と決めるだけは決めてからもうずいぶんになる。ふたりきりで、<エウロス>の外で、翌日も休みで――この条件がこんなに整わないとは考えもしなかった。
ベルナルドがオレを女扱いで見てないなんてことは、もちろんちゃんとわかってる。性的に触れ合うようになった最初の頃から、ベルナルドはびっくりするほど口での愛撫、いわゆるフェラチオをしたがった。治安の悪いスラム街からパイロット適性を見込まれてスカウトされたベルナルドだ。そういうことを強いられてきた経験があるんじゃ、と邪推したオレは相当固辞した、と思うけど、結局は快楽に負けてしまった、と言う他ない。食い気が強いから、に関係しているのかベルナルドは心底嬉しそうに熱心にオレのペニスをしゃぶってくれる。オレのほうはご立派なベルナルドのを咥えきれなくて、きっとそんなに気持ちよくしてやれてない。
なんだか申し訳なくて、せめても、とオレはアナルの開発に精を出しているつもりなんだが、これも結局ベルナルドが指でしてくれるのが悦すぎてされるがまま。こんなんでいいのかな、と不安はあるけど、少なくとも今はベルナルドはオレがいいんだろう、と開き直っている。
「アル、ねえ……
どうしてもシャワーないとダメですか?」
「ん……っ、や、おまえ、こんなにしてるし、
ダメってもきびしいだろ……?」
主張をはじめた股間を撫でるとベルナルドは文字通りよだれを垂らしそうな顔でオレの身体をまさぐって所構わずキスをしてきた。どんどんベッドのほうに押されて流されて、ふたり揃ってベッドに身を投げて……もぐもぐと口の中を探りまわるベルナルドの舌にオレももう夢中になってしがみつく。
「っ、は、ベルナルド……っ、
ちゃんと脱いでしようぜ……っ」
普段の慌ただしく欲を吐き出す触れ合いじゃなくて、ふたりきりで隙間なくくっついて気持ちいいことだけしたいんだ。
ベルナルドは心得たようで、唇を深々と噛み合わせたままオレの身体から器用に衣服を剥ぎ取っていく。裸にひん剥いて、なんて脅してきた割には紳士的な、だけど容赦のないスピードにオレも慌ててベルナルドの服に手をかけた。上半身は簡単だけど、余りがちな腰回りをベルトでなんとかしているボトムスがちょっと厄介なんだよな。
「アル、はやく……っ」
唸り出しそうなせっぱつまった声が頭上から聞こえて焦る。
「わり、ちょっとベルトが……っ、!?」
ぐるりと身体を回されて、まだ脱がせていないベルナルドの股間が目の前に来た。手早く剥かれてすうすうしてるオレの尻は体温の高い手のひらに包まれ、揉まれている。
「俺のほうは後でいいから」
興奮しすぎて掠れたような声の一言を最後に、ベルナルドはオレのペニスを下から咥え込んだ。いきなりトップスピードで飛ばす激しいフェラチオに、オレは簡単につぶれて体重をもろに乗せてしまう。
誰憚ることなく存分に淫らな水音を立てながら、ベルナルドは思う様オレのペニスを貪る。直径ちょうどにすぼめた唇でしごいたり、裏筋を彫り直すみたいに舌で何度もなぞったり、カリ首に唇を留めて先っぽを舌でくじられたらオレはもうばかみたいに喘ぐことしかできない。脱がせるどころじゃなくなってしまった下半身に縋りついて、勃ち上がったベルナルド自身を横目で捉えながらも頭の中は射精を期待する快感で白飛びしてしまっている。
ぐい、と尻に沿わされた手がオレの身体を引き寄せ、ペニスが更に深いところへ導かれた。亀頭が熱くうねる喉奥に抜き挿しされて、苦しいだろうと思うのに腰が振れるのを止められない。オレの動きに合わせて大きくペニス全体を口で愛撫して、ベルナルドはオレを追い詰めにかかる。
言い訳にしかならないけど、オレは本来そんなにフェラチオをさせたいほうじゃない。だから……もう射精そうって時は結構な勢いで離れて遠ざかろうとじたばたしてる、と思うんだけど、がっちりと腰に腕を回して固定され、吸ったり舐めたりしゃぶったりを情け容赦なく施されたらもうどうしようもない。今日もまたベルナルドの口の中に遠慮もなしに射精してしまった。咽せもせず最後の一滴まで吸い上げるようにしてから、ベルナルドはようやく口を離した。
「ベルナルド……お前、また飲んじゃって……」
射精後の倦怠感で動悸を鎮めながら、オレは振り返って文句を言う。食に情熱を注ぐ者として、精液は耐え難い味に思えたりしないんだろうか?
「美味しい、とは言いませんが好きな人の味ですから」
にっこりと笑って口を開けて、飲み下したことを証明してみせるベルナルドには毎回辟易する。オレは向きを入れ替え、ベルナルドの身体の上をずり上がって口に吸いついた。責任感を持って口の中の変な味を舐めとろうと試みているが、結局はただの深いキスになってしまう。
「ん、ふ……っ、んん……
味、消えたか……?」
「んっ……消えなくていいのに。
アルを食べたいって言ったでしょう」
「ばーか……食べたらなくなっちゃうけどいいのかよ」
正気に返ったら、正気が残っている艦内では絶対に口にしないような、とろけた脳みそが流れ出したみたいな科白で甘えてみる。音になって空中に放たれた時点で猛烈に恥ずかしくなり、ベルナルドの首っ玉にかじりついて顔を隠した。
「なくなっちゃうのは、だめです」
顔をくっつけた辺りからも振動が伝わるベルナルドの言葉。奇妙に片言めいた、いつにないそれにオレは思わず顔を上げ驚いた。
「ん? おい、ベルナルド?
なんでそんな、顔真っ赤にしてんの……?」
「いや、あの……俺としては、ですね。
覚えたてのハロウィンにひっかけて、
上手い事言ったつもりで」
「ハロウィン? どの辺が?」
「……『あなたという甘いお菓子を食べさせて』
って、言いたかったんですよ……!」
とうとうオレの頭を抱き込んで自分の顔を見られないようにして、ベルナルドは「くそったれ」などと素の言葉遣いでぼやいている。
甘いお菓子? オレが?
こいつは、ほんとに……と、恥ずかしさが伝染して、再びぐりぐりと顔をベルナルドの胸に押しつけた。ひとつも上手くない、ベタすぎる、エロ親父か。怒鳴って伝えたいような酷評ばかり浮かぶのに、顔はどんどん熱くなっていく。不覚にも、喜んでしまっているんだ。
「ベルナルド、ほら、オレもしてやるから」
「……え? いや、俺は……」
「オレもがんばるからいっぱいしゃぶって、
って言ったろ!
先払いでいっぱいしゃぶってくれたんだから、
今度はオレの番だろ」
「そんな、無理をしないでも」
「無理なんかしてねぇ!
……お前のキャンディバーに、悪戯させろっつってんの」
同じレベルの恥ずかしさを繰り出してやる、と意気込んで、ボトムスの中で窮屈そうな昂ぶりに手を這わせキメ顔キメ声で囁いてみせる。いくらなんでもこんなうすら寒いことを言われたら、最大膨張時は頬張るのがしんどいベルナルドのペニスも程よく萎えるだろう、と考えた、のだが。
「……なんで、今のででかくなるんだよ」
「……イタズラ、してください」
ジッパーだけ下ろしたボトムスの奥、下着の中にオレの手を導き熱いモノを握らせて、ベルナルドはまたキスを仕掛けてきた。
「ん、ははっ、すげぇヌルヌル……
ほら、脱いじゃえよ」
「しゃぶられるより、口はこっちがいい。
あなたの骨が当たるの、ほんとは好きなんです」
くっついた胸の中、鼓動が早まって言葉に嘘がないことを伝えてくれる。どうやら心底、口ですることが好きらしいベルナルドに出来る限り応えようと、オレは口を開けて絡められる舌を迎え入れる。
いつか身体を繋げられるその時は、口でも繋がったまましたい。徐々に遠慮なく口の中を蠢くベルナルドの舌を吸いながら、オレは自分の身の内に挿入ってくることになるだろうペニスをゆっくりと手で慈しみ育てていく。お前の身体、身体だけじゃなくて全てを、早く受け入れたいと思ってる。察しのいいお前なら、分かるだろ? ベルナルドの身体が跳ねる箇所に『イタズラ』を集中させて、オレは唇を合わせたままにんまりと笑った。