「っあ、あっ、んんっ、ガラム……ッ!」
「う、あ、は……っ、あ……っ、
ラダ、も、射精るからぁ……っ!」
自覚があるだけで少なくとももう2度は射精している。保たないのでは、という危惧も何処へやら、ガラムはラダの身体に夢中になって覚めない絶頂の最中にいた。互いの舌を口中に抜き差ししながら下肢でも繋がって、くっついている面積を少しでも増やせるように抱き合った。脳の神経が焼き切れそうな快感の中、ラダが好きだ、という気持ちで全身がかつて目に宿したピンクに染まっているような気すらする。抽挿のスピードは止めようなく早くなり、ふたりの身体がぶつかる音は高く響いた。
「あ、う、はぁっ、は……っ、う……っ」
「っ、あ……ガラム、達った……?」
「はぁっ……、は、あ……ん……」
返答しながらガラムはラダの腰を引き寄せて、射精を促すように腹でラダのペニスを擦り上げる。切れ切れに高く喘いでラダも程なく絶頂し、ガラムの背に回していた腕を力なくベッドの上に落とした。
「ラダ、一回抜くな……」
「や、あ……っ」
「嫌って、そんな訳にもさ……」
息を整えながらガラムはずるりと萎えたペニスを抜き出した。それをを立てた膝越しに眺めるラダは、淫らなことで上気した顔をどこか幼げにゆるめ微笑う。
「っは、んん……ガラム、いっぱい、射精たな」
「っ! ……おー……」
からかわれているなら減らず口で返せる。だが緩慢に身を起こし甲斐甲斐しくコンドームの後処理をしているラダは嬉しそうな様子を隠しもしない。ガラムは決まりが悪くなり「ラダ、いいって」と褐色の肌色の上でひらめく白い手を押しとどめた。
「? 不応期だろう、任せて寝ていればいい」
「ふおうき、がなんだか分からんけど、
なんか、悪いだろ……お前のが疲れてるだろ」
「疲れてなんかいない。
まだ君がナカにいるみたいで……ゾクゾクする」
思わせぶりに根元から先端まで揃えた指先でひと撫でし、ラダはゆっくりとガラムの視線を惹き付けながら口角を上げた。欲を見せつけるようなその笑みに、ガラムは不意に身の内が疼く感覚を覚える。
「な、ラダ。
挿入れるほうは……?」
「は……?」
「俺も準備はしてきたし……
お前にも同じくらい悦くなってほしい」
口にする気持ちも嘘ではないが、本当のところは20年前をなぞってあの時とはもう違うと思いたいのだ。今のガラムとラダならば、きっとふたりともが溺れるほどに気持ちいいはず。ガラムは必死でラダを見つめ拙い誘いをかける。
「準備と言っても、そうすぐに挿入れられる
ほど解れるものじゃないだろう……」
「先っぽだけ! 先っぽだけでいいから!」
「……君は何を言ってるんだ?」
呆れたようにガラムを眺めてから、ラダは困惑交じりの笑顔を近づけガラムの鼻先にキスをした。
「ぅわっ、なんだよ?」
「この間キリ君から魔女は張形を使って
儀式のために身体を拓いていくのだと聞いた」
「……キリと、なんて話をしてるんだ……」
「今度君に挿入れるなら、同じくらい丁寧に
私が君を解いてからにしたいんだ」
「ラダ……」
そっとガラムを抱き寄せて、ラダは鼻からまぶた、目尻から頬へくりかえし唇を触れさせる。湿った肌を撫でる手は優しいだけの慈しむようなものに変わっていた。
このままではなだめられて、流されて終わってしまう。ガラムは焦りラダを抱きしめてそのまま仰向けに倒れ込んだ。
「そんなに待てない。
お前とまた身体を繋げるなら、
挿入れてほしいってずっと思ってた」
「ガラム、何を」
「お前のこれで拓いてよ。
俺のナカ、お前の形にしてくれりゃいい」
まだ濡れているラダのペニスに手を伸ばし指を絡める。欲情を煽ってその気にさせて、なんてことが器用にできる訳もない。みっともなくても、恥ずかしくても、それを嗤ったりしないラダに、して欲しいことを訴えるだけだ。
「……私は、挿入れるほうはたぶん
下手くそなんだ……」
「それは! 俺とのがずっと
引っかかってるからだろ?
俺は悦かったって言ってるのに」
ガラムはラダの頭を両手で包み固定して、目を合わせて言い募る。
「儀式とは違うんだって証明してやる。
来いよラダ、上手い下手なんか関係ないだろ」
「ガラム……明日の身体の保証はしかねるぞ……」
「悦すぎて足腰立たなくしてくれるなら
望むところだけど?」
「いや、そっちじゃ……
うん、わかった。がんばってみるから……
まず脚を開いて、私に全て見せてくれ」
ラダは言うなりガラムに乗り上げた体勢から身を起こし、明らかに先程と違う触り方で太腿を撫で、脚を開かせた。するりと身体を脚の間に入り込ませたラダは視線をガラムに流しながら、強引ではないぎりぎりで開かせた脚を固定し膝に唇を落とす。どうということのない接触なのに、背筋に弾けるような快感が兆す。ガラムは努めて、反射的に閉じていこうとする脚を開いた。
◇◇◇◇◇
後悔している、とももう自覚できないほど思考が快楽に塗りつぶされている。口を開けて息を吐き出して、なにか声を上げているのだろうが自分でも意味がとれない。内壁をぬるぬると探られて時折じわりと押し込まれながら、ガラムはラダにフェラチオを施されている。
「ラダッ、も、あ、あぁっ、や……っ!
いいから、いれてくっ、ぅあっ!」
まだだめだ、というつもりだろう。ラダは深々とガラムのペニスを咥え込んだまま首を振る。わざと……かどうかは分からないがすぼめて吸い付いた唇がまた違う刺激になって、ガラムはラダの指を更に身の内に引き入れてしまった。
「や、もうむり、ラダぁ……っ!」
懇願するガラムにラダはペニスを口から解放し、埋めた指の動きを止める。
「はっ、はぁっ、は……な、もう、
はやく、うっ……!」
「だって、まだ指2本だぞ?」
「い、いからっ!
お前ので拡げてって言っただろ!?」
それとも、ラダはガラムには勃たない、のだろうか。こわごわと、下肢に顔を埋めていたラダの、顔を見、下腹部に視線を移してガラムは目を瞠った。そそり立つラダのペニスはガラムのそれより確実に大きく漲って下腹につきそうな勢いを見せている。ガラムの視線に気づいたラダは済まなそうに腕で自らの身体を抱き、勃起を隠した。
「え、ちょ、ラダ、それ……
さっきよりでかくないか……?」
「ん……その、後ろで感じてる時は
少し小さくなるみたいで……
だから、あの、これが挿入るように」
俯いてぼそぼそと呟くラダがたまらなく愛おしくなり、ガラムは顔を上げさせ額をくっつけて笑いかける。
「ばっか、俺には勃たないのかって
不安にさせやがって!
指でいじるより時間かけて挿入れてくれよ」
「……わかった」
頼りなく眉をひそめたまま、無理に笑みを浮かべたような顔でラダはガラムの唇をちゅ、と吸い、流れるような動きでガラムをうつ伏せにひっくり返した。
「ラダ……後ろから……?」
「慣れてない君に正常位を強いるのも……
寝ているところにかぶさって挿入れるから
楽にしていて」
ガラムは言われるままにうつ伏せで力を抜き、転がっていた枕を抱えた。耳に入る微かな音で、ラダがコンドームを着けローションのふたを開けているのを察知する。確かに全てがもし目に入っていたら、期待よりも緊張、怖れが上回ってしまっていたかもしれない。
「う、ぁ……っ」
「済まない、少しだけ……」
尻のあわいにとろりとした液体を垂らされ、思わず声を上げてしまう。指ですくって窄まりに塗り込み、ラダはすぐにガラムの上にのしかかってきた。短い髪のせいで露わになっているガラムの耳を唇で食み、舌を這わせてラダは「ガラム、挿入れるよ」と囁きながらアナルに亀頭をくっつける。
「ラダ、早く、大丈夫だから」
「だめだ。ゆっくりするから……」
言いながらラダは片手をガラムの胸に這わせ、先端でアナルをつつく動きに合わせるようにあちこちを撫でまわす。臍、腰骨、腹筋の割れ目を辿って胸板、首。また戻ってその手が鎖骨の形をなぞり乳首を掠めた時、ガラムは身体を跳ね上げてしまった。はずみでアナルは押しひろげられ、ラダの一部を呑み込み始める。
「っく、う、あ……っ」
「今、カリまでいっぺんに挿入った」
「ん……ラダ、もっと」
「ガラム、乳首、悦さそう?」
「そっちじゃねえ! もっと挿入れてって」
「だって乳首撫でたら挿入りやすかった。
もう少し、触ってみたい」
言いながらゆるゆると下肢を揺らし、ラダは器用に動く指で小さく硬くしこったガラムの乳首を本格的に弄りはじめた。アナルの異物感と乳首への刺激が同時にガラムを襲う。背中には密着したラダの体温と鼓動を感じ、ガラムは徐々にまた平静を失いだす。
「ガラム、枕で塞いでいていいから。
声を上げた方が楽になる」
「んっ、ん、んぅ……っ」
じり、じりと奥へ熱い昂りを沈めながらラダは自らも息を乱し声をかけた。背中に触れるラダの粒だった乳首の感触に、ガラムはラダも同じだ、と安堵する。島では上半身に服を着ないことが多いガラムにとって、乳首という器官は普段意識することもないものだった。それがラダに少し触られただけで、こんな……。どこかおかしくなってしまったのでは、と不安にもなる。
「ん、んんっ、ぁ、は……っ、あぁ……っ!」
「ガラム、分かる? 全部、挿入った……」
ゆるやかにガラムに体重を預けきり、重みの助けを借りて根元までガラムの身の内に収めたラダは、耳に吹き込むように熱っぽく囁いた。ラダの形に押しひろげられたナカが脈打っているのをまざまざと感じる。これがどちらの脈なのか、ふたり同調してひとつになっているのか、いっぱいいっぱいのガラムにはもう分からない。
「あ……っ、あ、あぅ、は、あぁっ、あっ」
「苦しい……? すまない、ガラムっ……」
「くるし、いだけなら……
こんなになって、ねぇ……っ!」
執拗に乳首を転がすラダの手をペニスに誘導し、ガラムは証明を試みる。勃ちあがり陰嚢の辺りまで先走りを滴らせた快感の証にラダは首元に唇をつけたまま「よかった」と呟き、腰を揺らす動きと連動させ手を上下させる。じわじわと小さく抜き差しを繰り返し、内壁を擦られ、ぬめるペニスを丹念に扱かれて、ガラムは急速に絶頂へと追い上げられていく。
嫌だ、ひとりで達ってしまいたくない。その一心で力の入らない腕をつっぱって身を起こす。首をねじまげて背後のラダへ顔を寄せ唇へ吸い付いた。心得たラダが後ろから首を伸ばして深々と舌を侵入させ、絡めてくる。息が苦しいのに制御も把握もできない快感が波のようにガラムを満たして、ラダを求めずにいられない。
「ガラムっ、ナカ、すごい……っ」
「ラダぁっ、悦いか……っ?
俺の身体で達けるか?」
「ん、あっ、んん、あっ、は、はぁ……っ!!」
理性を手放したようなラダはガラムを小刻みに揺すって、内奥で昂ぶりを更に膨れあがらせる。切迫感を増した掠れ声を唇がずれた隙にこぼしながらラダは熱いものをぶちまけた。皮膜越しにも感じるそれが最後の一押しになり、ガラムも登りつめ荒い息を吐きながらベッドに身を沈める。射精が起こったのにアナルはまだひくつきラダのペニスを喰いしめて、ガラムの身から絶頂の波が引かない。
「ラダ、ラダ……っ!
なん、だこれ、身体、おかしくて……っ!」
「ん、は……っ、だいじょう、ぶ、
ガラム、無理に落ち着こうとしないで。
悦いなら、感じてるままで……」
優しくやわらかく肩や背中をさすり、安心させるようにラダは囁いた。性的な快感と安堵が混ざりあい、浸透し、ガラムは重くなってくるまぶたに抗いきれない。辛うじて「ごめん、ラダ、寝る」と発したつもりの言葉は聞き取れただろうか。全てのことを目覚めた後の自分に投げて、ガラムは意識を手放した。
◇◇◇◇◇
「う、ん……」
「……あ……目が覚めたか」
目を開けると胸元からゆるやかなラダの声。抱きしめ合う姿勢で大きいとは言えないベッドの中眠っていたようだ。
「悪い……後始末、全部やってもらって」
「んん、ふふ、嬉しかったから、いいんだ。
なあ、ガラム。……悦かった、か?」
ガラムの答えは分かっているだろうに、それでも不安をのぞかせてラダが問う。裸の肩を漏れる朝焼けの光で染めて、揺れる目をガラムに合わせてくるラダに腕を伸ばした。
「ん……っ」
心得たようにまぶたを閉じて待ち受けるラダに唇を落とす。吸い合うだけのキスをひとしきり交わし、ガラムは笑って「悦かったけど、20年分には全然足りねえ」と囁いた。セックスも、そうじゃないことも、ようやくふたりで共に楽しめるのだ。一晩じゃ足りない、ラダの言った通りだ。ガラムはまだ覚めきらない頭で次の約束をどう取り付けたものか考え始めていた。