穏やかな波のような快感がカナンの内奥に包まれた性器から体中へ広がっていく。深くまで挿入れたまま腰をゆるゆると揺らし、手のひらでなぞっていないところはないほどカナンの身体の形を確かめて、キリは激しく穿ちたい衝動をやり過ごしている。
「カナン、だいじょうぶか……?」
「は、ぁ……っ、キリこそ、
半端で辛くねえの……?
ナカに出さなきゃいけないんだし
もっとガンガンやっていいんだぞ」
少し無理のある態勢で首をねじ曲げ、カナンはキリを見て喘ぎ交じりに囁いた。身動ぎすると内壁が蠢いてキリの性器を奥へと取り込もうとする。今はまだ、この迎え入れられているような動きを感じていたいのだ。
「動くのが、もったいない気がして」
「ん……っ、しゃ、べると来るな……っ!
何回も射精して疲れたら
どうせあんまり動けなくなるだろうし……
いいから、動けよ」
「ん……なあ、カナン。
やっぱり前から……もっとくっついてしたい」
やっと身体で繋がれたのだ。隙間なく肌を合わせて、舌を絡めて、溶けて一つになるような交わりをカナンとしたい。キリは思いを込めて後ろから腕を回し、カナンを全身で引き寄せ、抱きしめた。
「……ん、おれも。
恥ずかしいけど、顔見えるほうがいいや。
な、キリ、挿入れたまま
体勢変えられる?」
「わからない……けど、難しくないか?」
「うん、でも……抜かないで」
最後は消え入るような声で小さくカナンがねだるのに、キリは瞬間頭の中が沸騰したような興奮を覚える。身体の反応は理性で止めようがなく、キリは性器の硬度が増したことを自覚した。
「あ、は……っ、おっきくなった」
「カナン! 我慢してるんだ……!」
「へへ、ごめんって。
じゃあ、さ、このまま一回つぶれて、
横に倒れて、ぐるっとして」
「っ、う、あ……っ!
カナン、むり、射精る!」
体勢を変えようとごそごそしだすカナンの内奥で、キリの性器は擦れ絞られる。そもそもキリはまだ一度も射精に至ってはいないのだ。直前まで高めては熱を散らされ、また昂って、を繰り返していた性器はあっさりとカナンの中へ欲望を放った。
「あーあ、射精ちゃったかぁ。
ま、これであいこの一回ずつ……、っ!」
からかうようにキリを見て笑い交じりの言葉をかけていたカナンが身体を丸め、震え出した。キリは仰天し、泡を喰ってカナンの背をさすり、抱きしめる。
「カナン! どうし、気持ち悪いのか!?
ちゃんと横になって、呼吸は!?」
「っ、あ、キリ、ちがう、
これが、儀式の……っ!」
ごろりと仰向けになり、キリを抱き寄せてカナンは言う。慌てて顔を覗き込んだキリの顔を両手で挟んで引き寄せて、カナンは必死に唇を求めてきた。
「んんっ、ふ、は、ぁ……っ、
キリの、精液すげえ熱い……っ」
これが儀式の、カナンは切れ切れにそう言った。儀式の交わりの中で、キリの精液は即効性の強烈な媚薬となってカナンを苛んでいる。そういうことだろうか。
「も、はやく、挿入れて、
奥まで来いよぉ……っ!」
「カナン、わかった。
手、背中にやって。ひっかいていいから」
大きく脚を開いてキリを迎えるカナンへ再び性器を潜らせるため、キリは性急に雑な手つきで扱き上げる。程なく勃ち上がった性器に手を添え、目もくれずカナンの中へ分け入った。
「あ、あぁ、んっ、ん、む……っ!」
ずぶずぶと呑み込まれていく性器と、深く噛み合った唇、絡ませる舌。カナンがしっかりとしがみついているのを確認し、キリは抽挿を開始する。
「キリっ、あつい、きもちいっ、あっ、は、ぁっ!」
唇が離れると溢れてこぼれるカナンの追い上げられるような喘ぎ声にキリも次第に理性が焼き切れていく。ふたりの間で絶え間なく上がる粘性の水音が、カナンの喘ぎ、吐息が、そして体温で温まり濃密に香るジュプンがキリに我を忘れさせた。
「カナン、カナンっ、俺……っ!
お前のことが、好き、ずっと、だいすき……っ」
欲望を叩きつけながら、普段は察してくれるカナンに甘えて出せない心の奥の本音が転がり出る。好きだから、カナン相手じゃなければ儀式なんか。キリの精液で快楽に浸されているカナンに届いているかは分からない。もっと頭がまともに働いている時に、ちゃんと言わなければいけないのに。キリは止まらない言葉と共に、涙が溢れているのに気が付いた。
「あっ、あんっ、あ、あぁっ、ば、か……っ!
な、くなよぅ……おれも、すきだよ、キリ」
顔を上気で、目を魔女のピンクに染め切ったカナンが喘ぎの中でキリに答える。舌を出しべろりと涙を舐めとって、手をキリの尻に這わせやわやわと揉みながらカナンは言った。
「ん……っ、あっ、な、おれたち、
好きでこんなやらしいことしてんだ」
「っ、は、あぁ……っ!」
つぷり、と不意打ちでカナンに後ろを探られて、キリは思わずのけぞり、声を上げた。
「もっと、何もわかんなくなるくらい
ガンガン突いて、奥で射精せよ」
後ろ、指で弄られてイくのが良ければおれがんばるけど?
目に涙をためながら、それでも強気に笑ってカナンは囁く。その顔に胸を衝かれ、たまらない愛しさで呼吸をも乱したキリは言葉が終わるなりカナンの唇にむしゃぶりついた。後ろに埋められたカナンの指にも構わず腰を振る。再び切れ切れに高く掠れた喘ぎをこぼしはじめたカナンを全て食らいつくして、そしてその後捧げる身を食いつくしてもらえばいい。そう思った。
◇◇◇◇◇
「はっ、はあっ、は、あ、あぁ、う……っ!」
何度目かももう分からない射精をしてキリは脱力した。カナンは力の入らなくなった腕を重みでキリに絡めて、突かれる度に掠れきった短い喘ぎをくりかえしている。時折けいれんするように身体を跳ね上げるのは絶頂に至っているのか、しかしもう射精のないまま感じ入っているようだった。
「カナン……一回抜いて、休憩するか」
「……ん……抜かないで休憩……」
今抜かれたらもう一回イっちゃいそうだ。そう囁く声の掠れ具合にキリは居たたまれない。
「カナン、ごめん。
結局、俺はずいぶん無茶をして……」
鼻先を顔にすり寄せ、謝りの言葉を口にし、キリは気付いた。
「カナン! 目、戻ってる!」
「まじか! ほんとだ、もう水色じゃない!
キリ、おまえのその色、すげえ久しぶりだ」
顔を近づけて互いの目を覗き込み、映る色が元通りであることを確かめる。本当にカナンの言う通り久しぶりに、生まれたままの瞳の色を目にするような気がする。
「ってことは、もう次の日になったのか?」
「時計がないから正確には分からないけど、
とにかく儀式はもう終わった、でいいんだろう」
選定の儀のときのように明確に何か起こる訳ではないんだな。キリはどこか拍子抜けしたような気持ちになる。
「カナン、どう……?
抜いても、大丈夫か?」
「ん、たぶん。
儀式が終わったんなら、キリの精液が
変に効くってのも終わっただろ」
掠れはひどいもののしっかりとしてきたカナンの声に頷いて、キリは萎えた性器を抜き出した。カナンは小さく呻きはしたがそう大きな影響はないらしい。抜いた拍子に垂れ落ちた精液、その量には目を逸らしたくなる。
「よっし……キリまだ元気ある?
挿入れられるほうは射精さないでも
イけるから寝てりゃいいけどさ」
「な、え!? カナン、お前こそ元気……
今から、するのか……!?」
憚ることなく性器を握り扱きながらあっけらかんと言うカナンに、キリは開いた口がふさがらない。
「なんか、これが陽の気を受ける、ってことか?
ギンギン、ってやつみたい」
「お前が大丈夫なら、じゃあ……
ええと、お願い、します……?」
横たわり、自分で太腿を抱えて脚を開いてみせる。カナンは嬉しそうに顔をゆるめ、キリの身体にべったりと乗り上げてきた。擦りつけるようにずり上がり、にんまりと笑って口を開けるカナンに、キリも心得て舌を伸ばし迎え入れる。
「ん、んふ、は……っ、キリ、おれな、
実験したいことがあってさ」
「……実験……?」
嫌な予感しかしないが一応聞き返す。
「おれん中にいっぱい射精したキリの、
これキリに戻したらどうなるかな~って」
後ろからすくい取ってきたのか、指にまとわせた白濁をキリに見せつけながらカナンが笑う。正直な感想としてはあまり嬉しくはない、やめてほしいが、儀式とはいえ好き放題身体を貪った後には何も言えない。
「ん……いいよ、やってみたら」
「いいのか!?
おれん中に入ってきた時、ほんとにさ……
スゴかったんだって。
キリにも知ってほしいんだよ」
熱弁を振るうカナンには悪いが、それは聖獣の精液を魔女が受け入れたから、ではないだろうか。
そうは言っても、で香油も足して、カナンの指が潜りこんでくる。キリのそこもカナンと同じだけ慣らされ、指ならそれほど抵抗なく呑み込むように作り替えられてきた。やっと、カナンが挿入ってくる。そう思うと、意図せず内壁が蠢くのを止められない。
「ん……っ、あ……、う、ぅ……っ」
「キリ、どお? かーっと熱くなってこないか?」
「う……、こ、ない。
も、はやく挿入れてほしい……」
指でこれほど感じるなら実際カナンに挿入れられたらどれほどか、と想像していた。聖獣の熱にうかされたのだとしても、あれほどまでに悦いのなら……。キリは期待を込めてカナンを見つめた。
「……キリ。なあ……
今ほんとに、さあ。
おれに挿入れてくれって思ってる……?」
「? ほんとに、って?
指の感じが違うとか、か?」
「んん、指で感じる、ナカはすごい動いてるし
挿入れてほしそうに見えるけど。
もう、目の色で分かるんじゃないから」
目を逸らし、自信を持てない風情でカナンが言う。この期に及んで何を言うのか。嬉々として体内に残った精液を本人に戻すなどという振る舞いをしておいて、それをも受け入れ、貪欲に締めつける内奥を指で感じていながらまだ確信が持てないのか。キリは半ば怒り、半ば安心させたい気持ちで空いたカナンの手を取り自らの胸に当てた。
「目の色がなくても、分かるだろ。
心臓の音も、ち、乳首も……お前を待ってる」
「……キリ……」
ちゅぽ、と下肢で指を抜く音が上がり、入り口に昂ぶりが当てられた。キリは寝台に体重をかけてさらに大きく脚を開き、腰を持ち上げるような体勢を取る。
「う……っ、ぁ、はぁ……っ、はっ、っふ……」
「キリ、辛い? 抜く?」
ずぶずぶと身の内に挿入ってきたカナンの性器は、指とは違う圧倒的な質量、圧迫感でキリの内奥を押しひろげる。辛い、とは言えない。痛い訳でもない。どう言っていいのか分からないが、ただせっかく繋がった身体をまた引き離すのは嫌だった。キリはカナンを引き寄せ、首を振る。離れないでほしいのだ。
「ん、分かった。
このまま馴染むまでじっとしてる」
「し、かえし、するんじゃなかったか」
「……また今度な。
なんか、さあ。ちゃんと、キリとしてる、って
分かりながらしたい気分なんだ」
繋がった下肢をあまり動かさないようにしながら、カナンはキリの身体の輪郭を確かめるようにゆるゆると手を動かし、撫でさする。快感を煽る目的ではなく労わるようなその動きはしかし、内部の感覚をどうにか紛らわせようと苦心しているキリには身体に熱を灯していくものでしかなかった。
「っ、ふ、あ……っ、ぁあ……っ!
カナンっ、これが、悦いってこと……?」
性器に受ける快感とは全く違う、捉えどころなく困惑するような波が身体の中を通り過ぎてはまた戻ってくる。キリは頼りなく放り出された気持ちで、必死にカナンにしがみついた。いつの間にか耳近くに寄せられていたカナンの唇から吐息と掠れた囁き声が吹き込まれる。
「キリ、赤くなってる。
悦くなってきてるんだ……嬉しい」
唇で耳を弄りながら反対の耳は指で後ろから丁寧に形を辿り、カナンは慈しむようにキリに触れた。身体の中で性器が脈打っているのをまざまざと感じる。もっと深くまで招き入れたいような気がしてキリはほとんど無意識に腰を揺らした。気付いたカナンが大きく顔をゆるめ、唇を重ねてくる。舌で口の中を探りながらごく小さな幅で抜き挿しされ、その度に声が漏れ出た。中の感覚は、たぶん既に気持ちいいばかりだ。
「キリぃ……今度また、激しいのもしたいけど、
今日はこのままゆったりやるの、どう……?」
「っ、あ……は、ぁ……っ、
つかれ、てるのか……?」
「かもな……っ、挿入れてても、
ナカもまだじんじんするし……
なんか、今ぐらいでくっついてたい」
少し眠そうにも聞こえる蕩けた声で、唇が離れた隙にカナンが囁く。言葉にされてみると確かにキリもそうだ。昂って、登りつめて欲を吐き出す、決められた手順のような交わりはもう今の気分ではない。返事の代わりにカナンの身体を撫で上げて一段と近くに引き寄せた。隙間なく重なって同じ波に身を委ねて、ただのキリとカナンとして交わりたい。目の色で伝わらなくても、ふたり考えていることは同じだろう、と確信が持てた。